N43
札幌にあるBARです。
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22年前、札幌藻岩山の麓にOPENし、今も当時の新鮮さを保ち続けてる
BARです。店内は天井から壁面、床そしてカウンターや什器迄全て真っ黒で、
光輝くのはワイドスパンのトーメイガラススクリーン越に見える札幌市街から
石狩平野に続く夜景だけで、谷崎潤一郎“陰影礼賛”を思わせる世界です。

雪が降り始めると、下からライトアップされキラキラと光り輝く、真っ白で
宝石をちりばめた様な雪は漆黒のカウンターに反射し、風の動きで変幻自在に舞い
実像と虚像が一体となって迫りくる様は、万華鏡かはたまた水槽の中に
入り込んで居るような錯覚を覚え、それはそれは美しい時間でした。
私の写真技術や拙い文章では、その美しさを伝える事が出来無いのがホント残念です。

私は札幌を訪れると必ず『N43』に来ます。店名は北緯43度に位置するからで、
シンプルですが素敵です。何度か来てますが、今回が一番綺麗に感じました。

夜景が綺麗な店は全国津々浦々沢山あると思いますが、違うのは雪と
店の作り方、そして経営者の心意気なのです。北国なら雪は当たり前なので、
店の作り方なのですが、我々プロではなかなか出来ないと思います。
徹底的に表現したいものに拘り、それ以外のものは全て無にする事で、その存在を
浮かび上がらせ心に響かせるのです。ガラススクリーンは絶対結露もしないし、
天井のダウンライトがガラスに映りこむ事もありません。
アプローチからエンディングまで全てにおいて、気づかない内に計算され尽くしているのです。
それは“美しさとはなにか”という経営する人の哲学が明確でないと
創れるものではありません。目に見えるものだけではなく、心に響く時間の過し方で
N43には“美しい時間がありました。”

長方形の平面図をイメージしてください。長辺の一つが札幌市街を見下ろす
カウンターのあるガラススクリーン、もう一つの長辺は山側の木々を映し出す
ガラススクリーンでテーブル席です。
短辺は入口と厨房で構成され、ガラススクリーン以外はスタッフの
コスチュームを含め全て真っ黒です。漆黒のカウンターに置くグラスにコースター
なんぞ置く筈もありません。そうです、無駄なものは何も無いのです。
あるのは2方向にある借景で冬になると宝石のように雪が舞い、それを邪魔をしない
人工的なコンクリートの塊の中にある漆黒の造作とのコラボレーションです。

アプローチは外にある階段でまず谷側に上がり、踊り場で今度は山側に上がり
Uターンするように直線の渡り廊下で夜景を見ながら、入口にたどり着きます。
帰りはその逆です。もうお気づきになった方もいると思いますが、そうなんです
店内でガラス越に見た夜景の余韻に浸りながらUターンするように階段を下りようと
すると、今度はガラススクリーンを通さない本物の夜景を見せてくれるのです。

■カウンターは札幌市街側にあり、晴れてると夜景が見えます。
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■反対の山側はテーブル席で入口までのアプローチがあります。
 手振れしてますが、漆黒のテーブルに景色が鏡のように映りこんでいるのが
 分かるでしょう。行った事はありませんが写真で見たアマンリゾートの黒いプールと
 考え方は同じですね。
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■雪が小降りになると夜景がぼやっと見えます。
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■風によって雪の表情が変化します。この漆黒のカウンターに映し出された変化する
 雪を見てると目眩すら覚えます。写真は手振れしてる上、シャッタースピードが
 遅いので、線状になってますがほんとはドット状でぱらぱらと舞っているのです。
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OPEN当時、店の下には何もありませんでしたが、どんどん民家が建ち始めたので
N43のオーナーは今から14年前、札幌から函館本線で小樽へ向かう途中にある
銭函の海岸沿いに、ユーラシア大陸から404kmに位置する伝説のBAR
ユーラシア404を創りました。
同じように暗黒の世界の店内に20~30Mもあろうかと思うガラススクリーンの
目の前に広がるのは、目には見えるけど音は聞こえない日本海の荒波だけで
最初に入った時に流れてた、エリック・サティの優しく包み込むようなBGMが
この店を更に引き立てていました。

私は北海道生まれですが、雪がこんなに美しく感じたのは13年前の
ここ“ユーラシア404”なのです。お店の人は雪が降ると又違った美しさが
ありますよと云っていましたが、その日はあいにくの晴れで雲ひとつ無く、
星が綺麗に輝いていました。この分ではもう雪が降らないので帰ろうと
思ったその時、みるみる内に空が雲に覆われなんと“雪”が降り始め
下からライトアップされた雪を初めて見ました。

店内は海に面した間口約30M、天井の高さが2.5M位のガラススクリーンの3/4
左側には1本の木が植えられ、まるで満開の桜が風で花びらが散るがごとく
雪が舞うその光景は、歌舞伎の世界のようでした。
又、雪が降らないときは
水墨画を見てるようで、とても商業空間では表現できなく、常識では考えられない
もので圧倒されたのです。

更に、湾に沿って走る函館本線の最終列車は崖の上に建つこの建物から見えない
ものの海に映しだされたライトで感じ、閉店時間を知ることが出来ました。
そうなんです、このユーラシア404は最終電車が通過したらクローズなのです。
創る側が酔うだけのフェイクなドラマ仕立てではなく、自然と人間の知恵で創り出した
ドラマチックで美しい時間を過せるBARでした。

仕事柄海外を含め色々な商業施設をリサーチしますが、一番です。
是非、皆さんにもこのすばらしいBARに足を運んで欲しいと思いますが
伝説と書いた通り4年前、残念ながら閉店したのです。
今はオーナーのセカンドハウスとして使用してるとの事ですが
当初から、10年経ったら閉店すると決めてたと聞きました。
理由は分かりませんが、日本の美でもある“儚い命の美しさ”
表現したかったのでしょうか。



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by works1211 | 2007-11-18 00:20 | インテリア・建築
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